スリランカのトゥクトゥク②:デコウィーラー

先日、ある日本の雑誌で「キューバなどでは観光客用のおしゃれなトゥクトゥクがあるが、アジアのものは実用性重視でデザインに工夫がない」という一文を目にしました。この文を書いた方にぜひ!!スリランカに来ていただきたいと思います。個性あふれる独創的なデコレーションで、ローカルの心も観光客の心もがっちりつかんでいますから。

                      f:id:Rikonish:20171214025648j:plain

            <これがそのキューバトゥクトゥク 出典:http://www.bahtaxi.com/coco-taxi-cuba/

まずはなんと言っても、Tuk Tuk Wisdom(トゥクトゥクの格言)などと呼ばれている格言たち。車体の後ろや横に、英語やシンハラ語などで書かれているのですが、ハッとするような名言や奇想天外な誤訳など個性が溢れており、毎日渋滞の中通勤する市民の憂鬱な時間を楽しいものにしてくれています。この格言を写真に撮って集めている人も多く、その写真を共有するfacebookページ(Sri Lanka tuk tuk quotes - ホーム | Facebookなど)まであり、スリランカ名物になっています。

残念ながらシンハラ語のものはわからないことが多いのですが、英語のものは、直訳するからおかしな感じになってしまったり、綴りや文法が間違っていて意味不明だったり、それなのに人生や世の中を俯瞰するような深すぎる言葉が書かれていて、狙ってるのか何なのか全くわかりませんが、人の心をつかむ絶妙なものが多いです。私のお気に入りは、決して楽ではないスリランカ庶民の悲哀を自虐的なユーモアで笑いに変える、サラリーマン川柳のような格言たちです。 

f:id:Rikonish:20171214024440j:plain

<「重荷(Load)を讃えよ」主(Lord)を讃えよ、というお祈りの言葉の綴りを間違えたのだと思いますが、重すぎる荷物をエンジンを酷使しながら運ぶスリーウィーラーの様子が想像され、「スリーウィーラー運転手の人生は辛いよ」という意味の皮肉に思えてきます。キリストも自らが磔になる十字架を背負って丘を登ったのですから、もし狙ってたとしたら、サラリーマン川柳も顔負けの意味深さです>

f:id:Rikonish:20171215032510j:plain 

<「俺はかわいくないんだ、しかもそれを知ってたんだぜ(???)」意味不明ですが、俳優ドウェイン・ジョンソンのマッチョな写真と、なぜか赤一色のアメリカ国旗と合わせるところが絶妙なセンスです。ドウェイン・ジョンソンが見たら仰天することでしょう>

 ただ、この素晴らしくクリエティブな自己表現のツールを、争いのタネにするような悲しい風潮もあります。昨2016年から、「シンハ・レ(ライオンの血)」というステッカーを貼った車両を見かけるようになりました。多民族国家スリランカで、多数派シンハラ人の民族ナショナリズムを煽る、他民族排斥運動です。レ(血)の部分は赤字で、暴力的な意味も含まれています。背後に政党や宗教団体があると言われていますが*1、スリーウィーラーを始めバスや乗用車にも多く貼られており、少なくない市民の支持を得ているようです。シンハラ人とタミル人の対立から、2009年まで20年以上に渡り内戦が続いていたスリランカで、平和な今でもこのような運動が広がるのは心配なことです。

そんな中微笑ましいのは、中古でシンハ・レのステッカーが貼ってある車を買ったのか、文字の部分だけ、または「レ」の部分だけ剥がしてある車両もかなり見かけることです。過激な思想を振りかざす派手なキャンペーンに気を取られてしまいがちですが、派手な運動を繰り広げていなくても、良心のある良識的な市民がたくさんいることに気づかせてくれます。ステッカー全部を剥がさないのはご愛嬌ですが、日本からの輸入中古車に「◯◯工務店」「◯◯訪問介護センター」などのロゴがついたまま走っている車も多い中、わざわざ「シンハ・レ」や「レ」の文字だけ剥がしたということは、排他的で暴力的な思想に相当な問題意識を持っているということなのでしょう。

f:id:Rikonish:20171224003047j:plain
f:id:Rikonish:20171224012724j:plain

<左がシンハ・レのステッカーを貼った車両。右ではシンハ・レの文字だけ剥がされています>

格言以外にも、人気のモチーフやテーマがあります。まず気になるのは、よく車内に貼ってある白人の赤ちゃんのポスター。あまりの唐突感に思わず、「この写真は、あなたのお子さん・・・ではないですよね?」と聞いてみまた。その運転手さんからは、「赤ちゃんってみんな好きだろ?」というもやっとした回答しかもらえなかったのですが、気になるので聞いて回ったら、どうやらスリランカの家庭では、出産前に「こういう赤ちゃんが生まれてほしい」という願掛けでかわいい赤ちゃんのポスターを貼るんだそうです。スリランカでは色が白い方がいいとされているので白人の赤ちゃんが多いのですが、たまに中国人っぽい東アジア系の赤ちゃんも登場します。自分の子どもの写真を飾るのではなく、生まれる前に他人の子どもの写真を飾るという逆転の発想!改めて自分の見識の狭さと想像力の乏しさに気づかされます。

f:id:Rikonish:20171223233936j:plain
f:id:Rikonish:20171223233933j:plain

<左の写真は東アジア系の赤ちゃん。右のポスターの赤ちゃんは多国籍な感じですが、だいぶ古ぼけているのでもう赤ちゃんは生まれたのでしょうか。色黒の赤ちゃんが生まれたらがっかりするのかなと思うと、いつもとても複雑な心境になります>

f:id:Rikonish:20171121031010j:plain

<これはさらなる変化球。なんと白人の赤ちゃんがプリントされたギフト用ラッピングペーパー。白人の赤ちゃんの写真は相当な人気なので、きっと喜ばれるのでしょうね・・・>
ちなみに左上の写真にある、サイドミラーの横についている縦長のものは、走っていると風が流れ込んで来てエアコン代わりになるという、本当に優れた代物です。乗客には風は届きませんが、自分が優先です。スリーウィーラーの中は風が吹き抜けるので意外と涼しくて、朝髪を乾かす時間がなくても15分くらい乗っていればしっかり乾きます。

そのほかになぜか人気のモチーフは、パイレーツ・オブ・カリビアンボブ・マーレー。共通点はドレッド・ヘア?これは散々聞いて回っても理由はよくわかりませんでしたが、ヒッピー的な自由な精神の人が多いのかもしれません。天井一面パイレーツ・オブ・カリビアンとか、光るジャック・スパロウとか、結構凝っています。

f:id:Rikonish:20171121030902j:plain

<このお兄さんは、天井の装飾に2万ルピーもかけたそうです。ジョニー・デップスリランカに来たら、街中自分の写真だらけでさぞ驚くことでしょう>

飾りものとしては、プラスチックのブドウ、カラフルな吸盤、そして手の長いサルがなぜか人気です。サルは車体の外側にぶら下がっているので排気ガスや雨で汚れていますが、相当運転が荒いのに落ちないのか不思議です。

f:id:Rikonish:20171223231012j:plain
f:id:Rikonish:20171223231459j:plain

<ブドウはマスカットバージョンもあります。サルはこの位置にぶら下がっているのがお約束>
水を入れる入れ物は、なんとお酒の空き瓶!飲酒運転ではありません、多分。ちゃんと瓶を入れるホルダーも備え付けです。スリランカでは、ペットボトルではなくお酒の瓶に水道水を入れて水筒代わりにすることが多いのです。銀行のデスクにもウォッカの大瓶がどーんと置いてあったりするので、知らないと度肝を抜かれます。消毒のためお湯を沸かしてから入れるのでガラス瓶がいいんだそうですが、真水を入れるだけでもお酒の瓶を使っているような・・・もうこれは文化です。

f:id:Rikonish:20171223235044j:plain

<これはキャプテン・モルガンですが、その他にアブソルート・ウォッカの瓶も人気>

ちなみに後ろに窓と横にサイドミラーが付いていますが、安全のために後ろを確認することはまずありません。後ろの窓はステッカーを貼る場所、サイドミラーは後部座席を覗き見するためか(女性の場合はジーっと見られることも多いです。前向いて運転して、と怒らずにでもはっきりと言いましょう)、神棚として使われています。信仰心の厚い人が多いスリランカでは、狭いスリーウィーラーの車内に神棚からお供えもの、お香まで一式揃っていることも多いです。まさか、神様に守られているから危険運転をしても大丈夫と思っているのでしょうか?スリランカは仏教の国と言われますが、スリーウィーラーの装飾を見ていると、特にコロンボにはヒンドゥー教キリスト教イスラム教の人も本当に多くいることがわかります。

f:id:Rikonish:20171223231222j:plain

<これはヒンドゥー教の神様。小さい花で花輪もちゃんと作ります>

雨がひどくなって来たら、普段はくるくると巻いてある横のカーテンを下ろします。ちゃんとファスナーもついていて、少なくとも後部座席は濡れずに快適です。運転席も多少カバーされますが、横が見えなくなるので上半分は閉められず、大雨だと結局びしょ濡れになっています。

ぷっくりとした後部座席はウォータープルーフなビニール仕上げになっており、つるつる滑るのが難点です。当然シートベルトもなく、車線を無視して猛スピードで走るので、右に左に滑って本当に危ない。私が唯一直してほしいと思うところです。後部座席は3人掛けですが、がんばって膝に乗ったりすれば5人くらいならいけます。前編で書いた通り馬力はすごいので、全然減速しません。警察に捕まるからという理由で、4人以上乗ると追加料金を取られる時もあります。警察に捕まるという理由が本当なのかわかりませんが、違法だからダメではなくて、違法だから追加料金を取るというのも商魂たくましいですよね。前編で紹介した逆走ルールといい、法律ってなんだろうと考えさせられます。

高そうな大きなスピーカーをつけている人も多いです。前編でお話ししたカルピティヤの悪路を楽々進む運転手さんは、夜にバーからホテルまで帰る道中、突然真っ暗な中で急停車し、「ちょっと待ってくれ」と言って運転席から降りて来て後部座席の横でごそごそやり始めました。燃料切れかと思ったら、なんとコードを繋いだ瞬間、爆音で音楽が流れ始めたので思わず吹き出しました。本人は大まじめで、「どうだ、いいスピーカーだろ」と自慢する訳でもなく、また無言で暗闇の中悪路を飛ばして無事ホテルに送り届けてくれました。ちょうど私たちは、音楽は携帯のメモリではなくクラウドに保存していて、データ通信の不安定なカルピティヤでは音楽を聞けないね、と話していたところ。こんな田舎で英語の最新ヒット曲をどこで手に入れたのかわかりませんが、自分で聞いていると思えないので、きっと外国人乗客向けサービスのつもりなのでしょう。都会から来た私たちには太刀打ちできない、かっこよすぎるスリーウィーラーの運転手さんでした。

f:id:Rikonish:20171224000846j:plain

 <スピーカーは後部座席後ろのエンジンの上のスペースに備え付け>

前編から最後まで読んでくれたあなたは、立派なスリーウィーラー研究家の仲間入りです。 ぜひスリランカで、素晴らしくておもしろいスリーウィーラーの生態をもっと知ってください!

*1:スリランカの各新聞を始め、国際的なメディアでも取り上げられています

thediplomat.com

スリランカのトゥクトゥク①:スリーウィーラー

f:id:Rikonish:20171117222731j:plain

私は毎日トゥクトゥク(三輪バイク)で通勤しています。自宅から職場まで1.5km、時間にして10分、料金は70ルピー(約50円)。東京のタクシー初乗り料金が1kmで 410円ですから(この倍ぐらいだったこともありましたよね)、信じられないほど安いと思うかもしれません。でも、スリランカでは庶民なら普段は乗らない高級な移動手段です。私は、スリランカでスリーウィーラー(またはスリーウィール)と呼ばれる、街ではちょっと嫌われ者のこの乗り物に魅了されています。

まずスリランカの他の交通手段と比べてみると、いかにスリーウィーラーが欠かせない存在かということがわかります。まず1.5kmなら歩けばいいのですが、排気ガスが酷くて皮膚の表面に黒い煤がつくほどで、運転が荒く歩道が整備されていないので危ない、朝から汗だくになる、嫌な言葉をかけられる*1などの理由から、できるなら歩きたくないというのが正直なところです。

バスは、路線や本数が多く便利ですが、バス停に近づくと車掌が大声で行き先を叫んで客寄せするのですが、停車してくれることは少なく、減速しているところに飛び乗ったり飛び降りたりしないといけないので、毎回ちょっとした戦いです。でも料金は交渉しなくていいし、例えば15kmぐらい(渋滞があるので45分ほどかかる)離れた郊外の街まで、スリーウィーラーで600ルピーのところ、バスならなんと50ルピーです。タクシーは車両がプリウスでとても快適ですが、流しがなく予約必須の上、渋滞時は予約すらできず不便です。

渋滞がひどい時間帯はスリーウィーラーに限ります。渋滞にはまっている車の間や脇を縦横無尽に走るので早いです。また、普通渋滞は一方向(朝は都心向き、夕方は逆)にしか発生しないのですが、スリランカの暗黙の交通ルールの一つとして、「反対車線の車が走れる状態であれば、スリーウィーラーは逆走可」というのがあります。警察が見ていても止めないので、暗黙のルールというよりは慣習法と言ってもいいレベルかもしれません(ちなみに世界でも慣習法は立派な法の一形態として認められています)。慣れないうちは必死に「逆走はやめてくれ」と運転手さんに懇願していましたが、慣れてくると早く着くのでありがたく思えてきます(笑)日本人としてはやはりちょっと罪悪感はありますが・・・。

       <堂々と逆走中>

アジアの三輪バイクの起源は、1950〜60年代まで日本で郵便配達などに使われていたダイハツのミゼットです。日本での製造は70年代に終了していますが、スリランカの車両はインド製で、メーカーはBajajやTVCなど多数あります。乗用車と比べると三輪バイクの上にカバーがついただけの頼りないもので、バスや乗用車の間を縫うように高速で走り抜けるので、危なっかしくてハラハラします。実際に事故もよく見かけます。

ここで私が声を大にして言いたいのは、スリーウィーラーの性能は本当に侮れないということです。以前、友人の運転するプリウスでカルピティヤという田舎町に行きました。未舗装の道を延々と進まなければならず、助手席に座っているだけで神経がすり減るような道で、到着後の現地での移動はスリーウィーラーを使いました。すると、あの悪路を嘘のように通常スピード(40km程度)で飛ばしていくのです。でこぼこもものともせず、乗り心地も全く悪くありません。プリウスでは絶対に登れない上り坂も楽々登っていくのには驚きました。車体が軽くて小幅な上、馬力も馬鹿にしたものではありません。友人は「車を売ってスリーウィーラーを買おうか」と半分真剣に言っていたほどです。このとき、私はスリーウィーラーの真の実力に気づかされました。「安くて小さくてインド製だからってみんな見下してるけど、本当は車よりも優秀な、すごい乗り物なんじゃないか」と・・・!

そう思って調べてみたら、なんと燃費はリッターあたり26km!満タンで走れる最大距離160kmでした(Bajaj製最新モデルの場合)。スズキのワゴンRは33.4kmで、もちろん日本の最新技術が結集された軽自動車には勝てませんが、こんなポンコツな見た目なのにすごいと思いませんか?

f:id:Rikonish:20171117223551j:plain

   <スリーウィーラーで長距離移動中、ゾウに遭遇!>

コロンボのスリーウィーラーは、半分以上がメーター付きです。初乗りは1km未満は50ルピー、その後100mごとに4ルピーが加算される仕組みです。待ち時間もメーターが加算されるので、用事を済ませている間は待ってくれる場合もあります。メーターがあっても使わない運転手は多いですが、これは本当にメーターが壊れている場合と、渋滞などの理由でメーター以上の料金を徴収しようとしている場合が多いようです。私は、相場がわかっているときや渋滞のときは交渉する、運転手さんが信用できなさそうなとき、疲れていて交渉したくないときはメーターなしなら乗らないなど、場合によって対応を変えています。遠くに行くときは交渉した方がメーター料金より安くなるときもあります。ちなみに、ここでサービス精神などというものを期待してはいけません。客がサービスを選択する権利以上に、彼らは客を選ぶ権利を行使します。渋滞しているから、雨だから、自分の家と反対方向だから(!)、など様々な理由で、乗車拒否されることもあります。途中でガソリンがなくなればガソリンスタンドに寄り、行きつけの商店の前を通れば買い物をしようとします。もちろん、待っている間も待ち時間メーターは回るので、ガソリンは諦めるとしても、買い物はあとで行けとはっきり言いましょう(笑)

一般の人が運転する車を呼ばるアプリ、Uberは2015年末にコロンボに参入し、すぐにローカル版のPickMeが登場して、両者とも急速に普及しました。Uberはやや高級路線で乗用車のみですが、PickMeはスリーウィーラーとインド製小型乗用車(TATAのNanoなど)が主力です。もちろん、アプリの地図上で出発地と到着地を登録して予約するのですが、予約するとなぜか必ずと言っていいほど運転手から電話がかかってきて、場所を説明させられます。来る来ると言って全然来なかったり、英語が通じなかったり、まあいろいろありますが、タクシーとスリーウィーラーの中間オプションができたのはありがたいことです。スリーウィーラーは、流しもやりながら、PickMeでの呼び出しも都合がよければ応える、という形態をとっていることが多いようです。

アプリが登場した当初、「どういう運転手が来るのかわからないので心配」と言う人がいましたが、流しのスリーウィーラーだってどこかに登録している訳ではないので同じことです。スリーウィーラー業を始めるのに、営業許可は必要ありません。車両を自分で所有している自営業がほとんどですが、いわゆる地域の元締めから「営業許可」を取らないとその地域で営業できないとことはあるようです。待ち場所を共有している運転手同士の絆は固く、縄張り意識も強いです。

f:id:Rikonish:20171117223848p:plain

<PickMeはヴェサックというお祭りの期間中、イルミネーションの場所を確認できる機能を追加>

スリランカ最低賃金は日給400ルピーですが、コロンボのスリーウィーラー運転手は一日2000ルピー、多い人は5000ルピー以上も稼いでいます。ただ、車両は輸入しかなく、スリランカは関税が高いので新車だと70万ルピー(約50万円)以上もします。ローンで購入して毎月1万ルピーずつ返しているという人もいます。ガソリン代は、1日500〜1000ルピーぐらいでしょう。ローンとガソリン代を差し引いても、例えば家政婦の日給が1500ルピー、日雇い建設労働者の日給が2000ルピーぐらいなので、自営業のスリーウィーラーは人気の稼業なのです。教育関係のNGOで働いている人が、私の住むコロンボ2区の公立小学校で将来の夢を聞くと、8割ぐらいの男児は「スリーウィーラーの運転手」と答える、と話してくれたことがありました。あまり裕福でない児童ばかり通う学校では、身近な職業の中ではスリーウィーラーはいい選択肢と思うのかもしれません。

スリーウィーラーの運転手は、スリランカでも特に運転が荒い、道端でたむろする、マナーが悪いなど、一般的にあまりいいイメージを持たれていません。ただ、この職業はおそらく都市部で最も簡単に就ける仕事の一つで、副業としてもできるので本当に様々な人がいます。確かにマナーが悪かったり、客の都合より自分の都合を優先する人は多いです。一方で、コロンボのあらゆる道を隅々まで知り尽くしていて渋滞を回避できる、事前に言っておいた時間に必ず来てくれる、お釣りはいらないと言っても絶対返してくれるなど、すばらしい運転手に当たることも多いです。また、娘二人が大学に行っていると言う人、大型商船のエンジニアを退職後にスリーウィーラーを買って自営業を始めたという人など、意外と学歴やお金のある人にも会いました。

f:id:Rikonish:20171123233918j:plain

<スリーウィーラーに観光客のサーフボードを積んでいるのもスリランカではよくある光景>

一度、仕事でミスをして動揺していて、友人の家に立ち寄った際、スリーウィーラーの車内にパソコンを忘れてきてしまったことがありました。運転手が友人宅まで持って来てくれたが、私のものかどうかわからず、電話も出なかったので確認もできず、とりあえず運転手が持って帰ったということです。翌日、半分以上諦めつつ、友人が控えておいてくれた番号に電話してみると、「帰省したところだが、一週間後に返す」と言ってくれました。まだ半信半疑でしたが、数日後に「本当に返ってくるか心配していると思うが、自分は本業は警察官で、絶対に届けるので心配しないで」とわざわざ電話をくれ、翌週本当に届けてくれたのです。日本では当たり前かもしれませんが、世界では全然当たり前のことではありません。ましてやこのパソコンは、彼のお給料の何ヶ月分もするものです。感激すると同時にとても申し訳ない気持ちになり、お礼のお菓子を入れた袋に少しだけ現金を入れて渡しました。後から「現金はもらえないので返したい」と電話をもらいましたが丁重にお断りしたところ、後日「お金はお寺に寄付しました。ありがとう」というメッセージがありました。スリランカの警察官は給料がよくないので、残念ながら、交通違反者などを捕まえたら罰金を免除する代わりに賄賂を要求して稼ぎの足しにしている人が多くいます。この彼はそんなことは絶対しないはずなので、代わりに副業としてスリーウィーラーの運転手をしているのでしょう。私は最初に乗ったときにちゃんと丁寧な態度をしていたかどうかとても心配になりました。このことがあってから、なるべく感じよくするようにしています。

だいたいスリーウィーラーに乗ると、どこから来たのか、から始まり、スリランカで何をしているのか、どこに住んでいるのか、結婚しているのか、子どもはいるのか、と根掘り葉掘り個人的なことを聞かれます。これはスリランカでは普通のことなのですが、日本人としては色々教えるのも不安です。ある友人は、スリーウィーラーでの会話用の設定として「夫がスリランカで働いているのでしょっちゅうスリランカに来ている」ということにしている、と言うので大笑いしました。スリランカ在住で未婚と正直に答えたらつきまとわれたことがあり、その後は観光で来ているということにしたら宝石屋に連れて行かれそうになり、最終的に「現地在住者でも観光客でもなく既婚」という設定を作るために生まれた物語なんだそうです。確かに相手も社交辞令で聞いている場合がほとんどなので、本当のことを教えたくないからと言ってちゃんと質問に答えないよりはよほどいいかもしれないと思いました。

さあ、そろそろおもしろくて不思議ですばらしいスリーウィーラーの魅力がだんだんわかってきましたか?でもスリランカのスリーウィーラーの最大の魅力は、その個性溢れるデコレーションにあります。これは続編でご紹介します!

 

海外就活事情

日本を出てから5年半が経ちました。アメリカ2年、パラオ2年、スリランカ1年半。最近、家族に「いつ帰ってくるの?」と聞かれなくなり、この海外生活が標準として受け入れられたんだなあと思います。

でも親戚や知り合いには相変わらず、「いつ就職するの?」「今度はスリランカ?あちこち飛ばすなんてひどい会社だね」などと言われ、一つの働き方として理解してもらうのはなかなか難しいなあと思います。

 

私は、いろいろな(主に日本政府系の)機関で、2〜3年の契約で国際開発関係の仕事をしています。2、3年ごとに就活をしなければならないので、不安定だと思われたり心配されたりするのですが、一度飛び込んでしまえば大したことではありません。私は日本の大学からアメリカの大学院に直接進学したので、最初の就活は日本の新卒就活と同じで辛かったですが、二度目からは選り好みしすぎなければ仕事はいくらでもあります。契約と契約の間が開いてしまったり、待遇が前職より落ちるようなことはありますが、どこでどのような待遇でどんな仕事をするのかを自分で選べるのがいいところです。逆に、同期の絆や組織への所属意識はとても低いので、その点は他の人を見て羨ましいと思うこともあります。

 

大学院時代、外部講師としてあるコースを受け持っていた大手NGOのプログラム・ディレクター(日本の企業で言うと部長ぐらいの役職)の人が、授業である就職サイトを紹介してくれた際、「私は今転職を予定していないけど、どのようなオプションがあり得るのか把握するためにこのサイトは常にチェックしている」と言うのを聞いて、衝撃を受けたのを覚えています。

また、パラオで働いていたとき、ジュネーブから視察に来ていたある国際機関のディレクターからLinkedIn(キャリア用ソーシャルネットワーク)のネットワーク申請が来たので、ここまでキャリアを上り詰めているように見える人でもまだアンテナを張っているんだなあと驚いていたら、その数ヶ月後に彼は転職していました。

私は年を取ってからも上昇志向を持ち続け、積極的に行動していてかっこいいと思いましたが、自分のキャリアばかり気にしていて今の仕事に集中できないじゃないか、と思う人もいると思います。また、同僚たちがいずれ同業の別組織に転職していく前提だと、信頼しあって仕事をすることが難しいというのも確かです。日本には日本の素晴らしい組織力がありますが、好きでも嫌いでもこの欧米式が世界標準なので、海外で働くなら受け入れてやっていくしかありません。でも今の私にはこの働き方が合っていると思います。

 

では実際にいつもどのように就活しているのか紹介します。

1.CV・Resume

Curriculum Vitae (CV)やResumeとは、履歴書のことです。日本とは違って自由様式で、メールアドレスなどの連絡先の下に、職歴や資格、学歴を列記し、写真はつけないのが普通です*1。"CV sample"などと検索すると、たくさん例が出てきます。

f:id:Rikonish:20170109020752p:plain

(CVの一例。free CV examples, templates, creative, downloadable, fully editable, resume, CVs, resume, jobs

このようなCVに短いアピール文を書いたカバーレターをつけて、企業に送りつけます。新卒で職歴のところに全く書くことがないとかなり厳しく、また応募しているポストの仕事に関連した経験でないと、たくさん書いても意味がありません。だから欧米の学生は、インターン等で経験を積むのに必死です。大学院のキャリアカウンセラーに、"Build up you resume!"と毎日のように言われていましたが、履歴書で「私はこれまでこういう仕事をしてきたから、あなたの組織でもこういう貢献ができます」というストーリーを描けないといけません。

こうやって書くと、今の仕事は次の就職のために履歴書に書くネタ作りのように聞こえてしまうかもしれませんが、実際そういう面も否定できません。私は、その中でも、限られた契約期間の中で、完全な内部の人間でないからこそできる、外からの視点を生かした仕事をしたいと思っています。

また、CV例の最後にあるReferenceというのは、前職の上司など、以前仕事をしたことのある人からの紹介です。採用担当者は、この紹介者に連絡を取って評価を聞くこともあります。転職がキャリアアップの手段として広く認められているからこそ成り立つものですが、ときどき求人情報に「応募書類に紹介者3名からの紹介文を添付すること」 などと書かれていることがあり、取り付けに苦労したりもします。

2.求人情報

公募の求人情報は、日本で言うマイナビのような就職サイトで探します。indeedやMonsterといった一般的なサイトや、イギリスやオーストラリア等国ごとのサイトもありますが、業種ごとのサイトで探すのが効率的です。開発系では、世界最大手はDevex、 日本ではPARTNERというサイトがあります。

Job Search | one search. all jobs. Indeed.com

International Jobs, Global Jobs, Jobs Abroad | Monster.com

Devex International Development

PARTNER 国際協力キャリア総合情報サイト

業種別のサイトは、自分がやってみたい仕事のキーワードを入力してみて、どのような仕事があり得るのか見てみるのがお勧めです。求人情報内のQualificationsという箇所を見れば、その仕事に就くにはどのような経験や学歴が必要か書いてあるので、今は応募できなくても、いつかそのポストに就けるよう目指すには何をしていけばいいのかわかります。

また、眺めているうちに、自分の関心がある分野では、どの企業や組織が求人を出しているのかがわかってきます。その企業・組織のウェブサイトに行くと、見出しタブや組織概要(About Us)の中にCareer, Jobs, Work With Us等の項目があるので、その組織の求人情報を漏れなくチェックすることができます。

多くの求人情報をチェックするのは面倒ですが、2年前には応募できなかった仕事に手が届くようになったとか、こんな魅力的な仕事があるのかとか、うれしい発見もたくさんあって、これまでのところ楽しんでやっています。 

3.LinkedIn

LinkedInは、facebookのように実名を使ったソーシャルネットワークですが、キャリア用に特化されたものです。世界で4億人が登録していて、CVの内容をアップロードしたり、業種や企業ごとにグループでネットワークを形成することができます。


What is LinkedIn?

この動画を見ればわかるように、基本設定だと名前を検索するだけで、LinkedInに登録している情報がわかってしまうので、注意が必要です。一方、企業の採用担当者の中には必ず応募者の名前を検索するという人も多く、プロフェッショナルなプロフィールを検索できるようにしておくのも利点はあります。

www.linkedin.com

4.ネットワーキング

これまでオンラインでの就活についていろいろ書いてきましたが、こうした求人には多くの応募が殺到するので、どんなにいいCVを作って送っても採用担当者の目に止まる確率は低いかもしれません。業種にもよると思いますが、結局はネットワーキング(コネ作り)が一番大切です。

自分の関心のある組織のイベントや、その分野の国際会議や研修等にはなるべく参加するようにし、周りの人たちに話しかけ、名刺を交換しておきます。こういう機会を通して同業者と繋がっておくと、思いがけず有意義な情報を教えてもらえたり、運がいいと仕事を紹介してもらえることもあります。もちろん、そういった展開につながらないことの方が多いので、同業の人たちと広く交友を深めたいという気持ちがまずあって、その副産物として情報を得られたらいいなというぐらいでないと続きません。 

5.ビザ・勤務形態

海外で働くのに、一番難しいのはビザの問題です。例えば、アメリカでは就労ビザを取得するのに雇用者に100万円ほどのスポンサー料を負担してもらわなければいけなかったりします。途上国でも、就労ビザの取得は意外と難しいものです。

一番簡単なのは、現地の組織ではなく、国際組織や日本の組織に採用された後で、駐在員として派遣してもらうことです。ビザは取ってもらえるし、普通は在外手当や家賃補助がついて、現地で採用される場合よりも待遇がよくなります。派遣元組織のある国(日本の企業なら日本)の基準で給与や手当が出るので、勤務先が途上国だったりして物価が安い場合には、割と余裕のある生活ができます。現地の言葉ができなくても、組織の公用語(英語や日本語など)ができれば採用されることもよくあります(ただし、スペイン語、中国語など主要な言語が使われている国では、その言葉ができないと難しい場合も多い)。

現地採用のいいところは、仕事を見つけやすいことだと思います。現地の事情をよく知っていて、言葉もできるということであれば、国内外のいろいろな企業から声がかかりますし、まずその国の求人情報は現地にいた方が断然入ってきやすいです。もし働きたい国が決まっていて、ビザや家賃の問題がない場合には、一つの選択肢だと思います。

 

これを読んで、なんだこれぐらいならできそうと思った人も、やっぱり不安定だからやりたくないと思った人もいると思いますが、知らなかった人にもこういう仕事の仕方もあるのか、と知ってもらえたらありがたいなと思います。

 

*1:写真をつけると、肌の色など外見での差別が意識的・無意識的にされやすいという事情があります。ただし、名前だけでも人種がわかることが多いのでこの問題は残っています。アメリカで、José(ラテン系とわかる名前)という人が、履歴書の名前をJoeに変えたら、返信が格段に増えたという話が広く報道されたこともありました。

www.huffingtonpost.com

『昨日の午後のこと』 ワルサン・シレ 


f:id:Rikonish:20161121033441j:image
叔母さんの家に火がつけられた

テレビみたいに泣いた

お腹から崩れ落ちて

半分に折れた5ポンド札みたいに

かつて私のことを愛してくれた人に電話した

平静を装って

もしもしと言った

彼の返事は、ワルサン、どうしたの、何があった?

 

私はずっと祈り続けていた

祈りの言葉はこう

神様

私には二つの母国があります

一つはカラカラに乾いている

もう一つは火に包まれている

両方とも水が必要です

 

その日の夜遅く

膝の上に地図を広げた

指で世界中をなぞった

そしてささやいた

どこが痛いの?

地図は答えた

からだじゅう

からだじゅう

からだじゅう

 

*日本語訳は勝手につけたもの。

ソマリア難民の子としてケニアで生まれ、1歳からイギリスで育ったWarsan Shireは、同い年なのに、考えと言葉が本当に深くて、一番尊敬する詩人。ビヨンセのアルバム”LEMONADE”に収録されている”Hold Up”という曲の最初でビヨンセが朗読しているのは、”For Women Who Are Difficult to Love”というシレの詩です。

シレのツイッターwarsan shire (@warsan_shire) | Twitter

youtu.be

ストリート・ハラスメント(街中での嫌がらせ)を撃退するための4つの方法

スリランカの首都コロンボは、とても住みやすい街です。もちろん日本と比べたら不便だけど、治安もいいし、街はきれいだし、生活に必要な最低限のものは何でも揃います。ビーチも近いし、建築はコロニアルもモダンも素敵だし、夕方はインド洋に沈む夕日を見たり、水曜の夜はフリードリンクのバーをハシゴしたりと、とても充実しています。

f:id:Rikonish:20161118040549j:plain

f:id:Rikonish:20161118044627j:plain

そんな楽しいコロンボ生活で唯一、本当に嫌で嫌でたまらないのが、道を歩いていると知らない男性に声をかけられること。ちょうどいい日本語がないけど、英語ではstreet harassment(道端での嫌がらせ)やcatcalling(猫を呼ぶように声をかけること)と言います。道を歩いているだけで、バスに乗っているだけで、すれ違いざまや少し離れたところから、ニヤニヤしながら声をかけられます。口笛やクラクションを鳴らす、無意味に呼びかける、女性の身体に関するコメント、ひどい時には強姦をほのめかすような言葉まで、程度は様々ですが、どれも本当に不快!腹が立つし悔しいけど、ほとんどの女性は聞こえないふりをして、下を向いて足早に通り過ぎています。ピンとこない人は、ニューヨークで女性が一人で歩くとどうなるかを記録した動画があるので見てください。*1

www.youtube.com

 声をかけられて喜ぶ女性がいるなどと言う人がいますが、これを見れば、たいていの人はとても嫌な気持ちになるだろうということがわかってもらえると思います。コロンボでは、外国人でもスリランカの人でも、この類の嫌がらせに遭遇する頻度は半端ではなく、私の知っているコロンボ在住女性の半分以上は、嫌がらせを受けたくないからという理由で、歩ける距離でも常にタクシーやトゥクトゥクで移動しています(もちろん安くないので、払えなければ嫌でも歩くしかない)。嫌がらせに遭うとそのままUターンして家に帰りたい気持ちになるし、出かける前に「この服は目立ちすぎるかも」と悩んで着替えることもしょっちゅう。道端でくだらない暇つぶしをしているレベルの低い人たちのために自分の生活を制限されるのは本当に許せないけど、やはり無意識のうちに気になってしまいます。たまに日本やタイなどの国に行くと、周りを気にせずに堂々と歩けるのがこんなにも開放感があるものかと感動します。

 

ちなみに、男性と一緒にいるときには声をかけられることはほぼありません。だから、男性の中にはそのような問題があることを認識していない人も多くいます。また、被害にあったことを言うと、男女問わず「女性が一人で歩くのが悪い」「短いスカートを履いていたんじゃないのか」「それぐらいのことで被害者ぶるな」などと言う人がいます。安易な被害者批判はどの国でもあることですが、たとえ裸で歩いていたとしても、嫌がらせをしていいということにはなりません。ちなみに先ほどの動画の女性もTシャツにジーンズでしたが、服装や時間帯に気をつけても嫌がらせは避けられません。身の安全を守るために注意深い行動をすることは大切だけど、自分は加害者ではないからと言って他人事扱いしたり、ましてや被害者を批判しているようでは永遠にこの問題は無くなりません。あるアメリカの大学生のプロジェクトで、強姦被害にあった女性がそのとき着ていた服の写真を集め、被害者批判に抗議するものがあります。とても力強いメッセージです。

15 powerful photos break the connection between 'sexy' clothes and sexual assault.

こういう公共の場でのハラスメントは、スリランカに限らず世界のどこでもあることです。日本は、女性が夜でも一人で歩けるすばらしい国だけど、とても恥ずかしいことに電車での痴漢行為は病的に蔓延しています。例えば、145か国を対象としたギャラップ社の調査(2011年)では、日本では、81%の男性が夜一人で歩いても安全と感じると回答したのに対し、女性は57%でとても低くなっています。ちなみにスリランカは男性76%、なんと女性は77%。

www.gallup.com

世界16都市で、女性にとっての公共交通機関の安全性を調べたトムソン・ロイター財団の調査(2014年)では、東京では、身体的なハラスメントがあると答えた女性は16都市中4位ととても多いのに、「安全」な交通機関を利用できる、と答えた女性も多く、15位となっています(コロンボは調査対象外)。

news.trust.org

こうして見ると、日本でもスリランカでも、女性が「安全」の定義を「身体的に傷つけられる危険がないこと」だととらえているのではないかと考えられます。でも、女性が昼間でも外を出歩いたり電車に乗ったりすることをためらうような街を、安全とは言えません。根本的な解決のためには、子どもたちに女性を尊重することを教え、周りの人たちがハラスメントを許容せず断固とした態度をとること、女性たち自身が自由に出歩く権利を正しく認識することが大切です。

街中でハラスメントを受けたら、どう対処すればいいのでしょうか。いつも下を向いてその場を立ち去るだけでは、加害者の行動はいつまでたっても変わらないし、なによりとても悔しくて、楽しく過ごせたはずの1日が台無しになってしまいます。いろいろな対処法がありますが、私が試してみて効果があると思った方法を紹介します。

1.まずは安全確保

何よりも身の安全を確保することが第一。周りに人通りが少ないときや暗くて見通しが悪いときなどは、どんなに悔しくてもすぐにその場を立ち去りましょう。危険が及んだときのために、携帯で誰かに場所と状況を伝え、電話で話しながら歩くのも一つの手段です。アメリカの大学生が開発した、Companion(「同伴者」という意味)という、夜一人で歩くときに現在地と行き先を登録して、友達や彼氏、家族に遠隔で見守ってもらえるアプリもあります。イヤフォンが外れたり、行き先までのルートから逸れたり、倒れたりしたら、安全確認画面になり、15秒以内に回答しないと大音量アラームが鳴って加害者を驚かせ、緊急時には自動で警察に通報されたり、登録した「同伴者」にメッセージが送られたりするようになっている、とても優秀なアプリです。「同伴者」の携帯にはアプリがダウンロードされていなくてもオンラインで確認できるし、アメリカ以外でも使えるのでおすすめです(日本語版はありません)。

youtu.be

Androidhttps://play.google.com/store/apps/details?id=io.companionapp.companion

i Phone: https://itunes.apple.com/us/app/companion-mobile-personal/id925211972?mt=8

2. 通報してみる

制服を着た従業員や学生から嫌がらせを受けたときには、後で会社や学校を調べて通報することもできます。特に、通勤路等で頻繁に同じグループから嫌がらせを受けている場合には、所属先を調べ、通報しましょう。通報してもまともに相手にしてもらえないこともありますが、丁寧に真剣な口調で話せば対処してくれることもあります。

3. 言い返してみる

加害者は嫌がらせをしている自覚がない場合がほとんどです。そういう人たちには、こちらが不快な思いをしていることを伝えなければいけません。逆恨みされる可能性もあるので、怒鳴ったり強い言葉を使たりするのは得策ではないけれど、あまり丁寧に言うのも逆効果。落ち着いた堂々とした態度で、まっすぐ相手の目を見てはっきりと言いましょう。ほとんどの場合、相手はびっくりして逃げ出したり、戸惑って気まずそうにします。英語が通じないこともありますが、こちらが抗議していることは伝わるので、現地の言葉がわからなくても大丈夫。でもできれば現地の言葉で言ってやりたいですね。重要なのは、言い返されても相手にしないこと。不快に思っていることが伝われば十分なので、言いたいことを言ったらさっさとその場を立ち去りましょう。できれば状況や言われたことに合わせた、気の利いた切り返しでぎゃふんと言わせたいけど、緊張しているのがばれないように言い返すのが精一杯。定番を考えておけばとっさに切り替えせます。例えば・・・

Repeat: Did you just call me ---? / Why did you say ---?

Principle: I don't like it. / What you did is a harassment.

Order: Stop it. / Never do that again. / Leave women alone.

What do you think if someone harass your sister / mother / daughter like that? *2

4. 周りの人にできること

ある日家の近くを一人で歩いていたら、近づいてきたトゥクトゥクに乗っていた酔っ払い3人組が、笑いながら口々に"Do you want to fuck me?"などとひどいことを言ってきたことがありました。行き先は目の前だったので、目を合わさないように歩き去ってその場はしのいだのですが、行き先のビルでエレベーターに乗ってきたカップルの男性の方が、「さっき大丈夫だった?」と聞いてきました。こんなにひどいのは初めてでショックを受けていたこともあり、一瞬何のことかわからずポカンとしていたら、3人組に嫌がらせを受けていたときすぐ後ろを歩いていた、と言います。あんなひどい目にあっていたのに大丈夫なわけがない、その場で一言声をかけてくれれば3人組はすぐ立ち去っていたはずなのに、と思うと、涙が出てきました。その場では何も言えなかったのですが、今でも「気遣ってくれてありがとう。でも次に同じような目に遭っている人を見かけたら、その場で何か行動を起こしてください」と伝えればよかったと、とても後悔しています。

ハラスメントを見かけたら、

  1. 加害者に注意する、じっと見る
  2. 被害者に大丈夫か聞く
  3. 加害者か被害者のどちらかに時間や道を聞くなど関係ないことを話しかける
  4. 通りがかりに加害者に聞こえるように「よくないよね」などと言う
  5. 被害者のすぐ横に立つ
  6. 加害者の写真を撮る

などの方法で助けることができます。*3もちろん、介入することで自分の身に危険が及ばないようによく注意しなければいけませんが、周りの人が見ていると思わせるだけでも全く違います。周りの人たちが見ていることを示すだけでも、嫌がらせする方はしづらくなり、された方は安全を感じることができます。

 

最後に、元気の出る動画をご紹介。街中でハラスメントを受けたら、追いかけてキラキラの紙吹雪が出るパーティー用のおもちゃの銃(Confetti Gun)を「発砲」し、背中に背負ったスピーカーを鳴らして「Sexista(スペイン語で「性差別主義者」の意味) Punk 」を歌うという、パンクな活動をしているメキシコの女の子3人組です。おもちゃの銃も音楽も彼女たち自身も、明るくて楽しくてかわいくて、これなら逆恨みされずに加害者を恥ずかしい目に合わせることができるし、動画を見るだけでとてもすっきりします。

youtu.be

みんなで安全に、堂々と街を歩きましょう。

*1:この動画は、公開された後、白人男性が声をかけているところを編集カットして、黒人やヒスパニックの男性ばかりが加害者かのように演出しているとして批判され、制作した団体は意図的ではなかったと謝罪しました。たとえ意図的ではなかったとしても許されることではありませんが、これが一番、ハラスメントがどんなに不快かわかりやすい動画だったので載せることにしました。

*2:こういう言い方は、「女性は男性の所有物としてのみ価値がある」というような考えを助長するので良くないと言う人もいますが、常識のない人たちに手っ取り早くわからせるのには効果的な言い方だと思います。

*3:Hollaback! You have the power to end harassment |  What To Do If You Experience/Witness Harassment