ストリート・ハラスメント(街中での嫌がらせ)を撃退するための4つの方法

スリランカの首都コロンボは、とても住みやすい街です。もちろん日本と比べたら不便だけど、治安もいいし、街はきれいだし、生活に必要な最低限のものは何でも揃います。ビーチも近いし、建築はコロニアルもモダンも素敵だし、夕方はインド洋に沈む夕日を見たり、水曜の夜はフリードリンクのバーをハシゴしたりと、とても充実しています。

f:id:Rikonish:20161118040549j:plain

f:id:Rikonish:20161118044627j:plain

そんな楽しいコロンボ生活で唯一、本当に嫌で嫌でたまらないのが、道を歩いていると知らない男性に声をかけられること。ちょうどいい日本語がないけど、英語ではstreet harassment(道端での嫌がらせ)やcatcalling(猫を呼ぶように声をかけること)と言います。道を歩いているだけで、バスに乗っているだけで、すれ違いざまや少し離れたところから、ニヤニヤしながら声をかけられます。口笛やクラクションを鳴らす、無意味に呼びかける、女性の身体に関するコメント、ひどい時には強姦をほのめかすような言葉まで、程度は様々ですが、どれも本当に不快!腹が立つし悔しいけど、ほとんどの女性は聞こえないふりをして、下を向いて足早に通り過ぎています。ピンとこない人は、ニューヨークで女性が一人で歩くとどうなるかを記録した動画があるので見てください。*1

www.youtube.com

 声をかけられて喜ぶ女性がいるなどと言う人がいますが、これを見れば、たいていの人はとても嫌な気持ちになるだろうということがわかってもらえると思います。コロンボでは、外国人でもスリランカの人でも、この類の嫌がらせに遭遇する頻度は半端ではなく、私の知っているコロンボ在住女性の半分以上は、嫌がらせを受けたくないからという理由で、歩ける距離でも常にタクシーやトゥクトゥクで移動しています(もちろん安くないので、払えなければ嫌でも歩くしかない)。嫌がらせに遭うとそのままUターンして家に帰りたい気持ちになるし、出かける前に「この服は目立ちすぎるかも」と悩んで着替えることもしょっちゅう。道端でくだらない暇つぶしをしているレベルの低い人たちのために自分の生活を制限されるのは本当に許せないけど、やはり無意識のうちに気になってしまいます。たまに日本やタイなどの国に行くと、周りを気にせずに堂々と歩けるのがこんなにも開放感があるものかと感動します。

 

ちなみに、男性と一緒にいるときには声をかけられることはほぼありません。だから、男性の中にはそのような問題があることを認識していない人も多くいます。また、被害にあったことを言うと、男女問わず「女性が一人で歩くのが悪い」「短いスカートを履いていたんじゃないのか」「それぐらいのことで被害者ぶるな」などと言う人がいます。安易な被害者批判はどの国でもあることですが、たとえ裸で歩いていたとしても、嫌がらせをしていいということにはなりません。ちなみに先ほどの動画の女性もTシャツにジーンズでしたが、服装や時間帯に気をつけても嫌がらせは避けられません。身の安全を守るために注意深い行動をすることは大切だけど、自分は加害者ではないからと言って他人事扱いしたり、ましてや被害者を批判しているようでは永遠にこの問題は無くなりません。あるアメリカの大学生のプロジェクトで、強姦被害にあった女性がそのとき着ていた服の写真を集め、被害者批判に抗議するものがあります。とても力強いメッセージです。

15 powerful photos break the connection between 'sexy' clothes and sexual assault.

こういう公共の場でのハラスメントは、スリランカに限らず世界のどこでもあることです。日本は、女性が夜でも一人で歩けるすばらしい国だけど、とても恥ずかしいことに電車での痴漢行為は病的に蔓延しています。例えば、145か国を対象としたギャラップ社の調査(2011年)では、日本では、81%の男性が夜一人で歩いても安全と感じると回答したのに対し、女性は57%でとても低くなっています。ちなみにスリランカは男性76%、なんと女性は77%。

www.gallup.com

世界16都市で、女性にとっての公共交通機関の安全性を調べたトムソン・ロイター財団の調査(2014年)では、東京では、身体的なハラスメントがあると答えた女性は16都市中4位ととても多いのに、「安全」な交通機関を利用できる、と答えた女性も多く、15位となっています(コロンボは調査対象外)。

news.trust.org

こうして見ると、日本でもスリランカでも、女性が「安全」の定義を「身体的に傷つけられる危険がないこと」だととらえているのではないかと考えられます。でも、女性が昼間でも外を出歩いたり電車に乗ったりすることをためらうような街を、安全とは言えません。根本的な解決のためには、子どもたちに女性を尊重することを教え、周りの人たちがハラスメントを許容せず断固とした態度をとること、女性たち自身が自由に出歩く権利を正しく認識することが大切です。

街中でハラスメントを受けたら、どう対処すればいいのでしょうか。いつも下を向いてその場を立ち去るだけでは、加害者の行動はいつまでたっても変わらないし、なによりとても悔しくて、楽しく過ごせたはずの1日が台無しになってしまいます。いろいろな対処法がありますが、私が試してみて効果があると思った方法を紹介します。

1.まずは安全確保

何よりも身の安全を確保することが第一。周りに人通りが少ないときや暗くて見通しが悪いときなどは、どんなに悔しくてもすぐにその場を立ち去りましょう。危険が及んだときのために、携帯で誰かに場所と状況を伝え、電話で話しながら歩くのも一つの手段です。アメリカの大学生が開発した、Companion(「同伴者」という意味)という、夜一人で歩くときに現在地と行き先を登録して、友達や彼氏、家族に遠隔で見守ってもらえるアプリもあります。イヤフォンが外れたり、行き先までのルートから逸れたり、倒れたりしたら、安全確認画面になり、15秒以内に回答しないと大音量アラームが鳴って加害者を驚かせ、緊急時には自動で警察に通報されたり、登録した「同伴者」にメッセージが送られたりするようになっている、とても優秀なアプリです。「同伴者」の携帯にはアプリがダウンロードされていなくてもオンラインで確認できるし、アメリカ以外でも使えるのでおすすめです(日本語版はありません)。

youtu.be

Androidhttps://play.google.com/store/apps/details?id=io.companionapp.companion

i Phone: https://itunes.apple.com/us/app/companion-mobile-personal/id925211972?mt=8

2. 通報してみる

制服を着た従業員や学生から嫌がらせを受けたときには、後で会社や学校を調べて通報することもできます。特に、通勤路等で頻繁に同じグループから嫌がらせを受けている場合には、所属先を調べ、通報しましょう。通報してもまともに相手にしてもらえないこともありますが、丁寧に真剣な口調で話せば対処してくれることもあります。

3. 言い返してみる

加害者は嫌がらせをしている自覚がない場合がほとんどです。そういう人たちには、こちらが不快な思いをしていることを伝えなければいけません。逆恨みされる可能性もあるので、怒鳴ったり強い言葉を使たりするのは得策ではないけれど、あまり丁寧に言うのも逆効果。落ち着いた堂々とした態度で、まっすぐ相手の目を見てはっきりと言いましょう。ほとんどの場合、相手はびっくりして逃げ出したり、戸惑って気まずそうにします。英語が通じないこともありますが、こちらが抗議していることは伝わるので、現地の言葉がわからなくても大丈夫。でもできれば現地の言葉で言ってやりたいですね。重要なのは、言い返されても相手にしないこと。不快に思っていることが伝われば十分なので、言いたいことを言ったらさっさとその場を立ち去りましょう。できれば状況や言われたことに合わせた、気の利いた切り返しでぎゃふんと言わせたいけど、緊張しているのがばれないように言い返すのが精一杯。定番を考えておけばとっさに切り替えせます。例えば・・・

Repeat: Did you just call me ---? / Why did you say ---?

Principle: I don't like it. / What you did is a harassment.

Order: Stop it. / Never do that again. / Leave women alone.

What do you think if someone harass your sister / mother / daughter like that? *2

4. 周りの人にできること

ある日家の近くを一人で歩いていたら、近づいてきたトゥクトゥクに乗っていた酔っ払い3人組が、笑いながら口々に"Do you want to fuck me?"などとひどいことを言ってきたことがありました。行き先は目の前だったので、目を合わさないように歩き去ってその場はしのいだのですが、行き先のビルでエレベーターに乗ってきたカップルの男性の方が、「さっき大丈夫だった?」と聞いてきました。こんなにひどいのは初めてでショックを受けていたこともあり、一瞬何のことかわからずポカンとしていたら、3人組に嫌がらせを受けていたときすぐ後ろを歩いていた、と言います。あんなひどい目にあっていたのに大丈夫なわけがない、その場で一言声をかけてくれれば3人組はすぐ立ち去っていたはずなのに、と思うと、涙が出てきました。その場では何も言えなかったのですが、今でも「気遣ってくれてありがとう。でも次に同じような目に遭っている人を見かけたら、その場で何か行動を起こしてください」と伝えればよかったと、とても後悔しています。

ハラスメントを見かけたら、

  1. 加害者に注意する、じっと見る
  2. 被害者に大丈夫か聞く
  3. 加害者か被害者のどちらかに時間や道を聞くなど関係ないことを話しかける
  4. 通りがかりに加害者に聞こえるように「よくないよね」などと言う
  5. 被害者のすぐ横に立つ
  6. 加害者の写真を撮る

などの方法で助けることができます。*3もちろん、介入することで自分の身に危険が及ばないようによく注意しなければいけませんが、周りの人が見ていると思わせるだけでも全く違います。周りの人たちが見ていることを示すだけでも、嫌がらせする方はしづらくなり、された方は安全を感じることができます。

 

最後に、元気の出る動画をご紹介。街中でハラスメントを受けたら、追いかけてキラキラの紙吹雪が出るパーティー用のおもちゃの銃(Confetti Gun)を「発砲」し、背中に背負ったスピーカーを鳴らして「Sexista(スペイン語で「性差別主義者」の意味) Punk 」を歌うという、パンクな活動をしているメキシコの女の子3人組です。おもちゃの銃も音楽も彼女たち自身も、明るくて楽しくてかわいくて、これなら逆恨みされずに加害者を恥ずかしい目に合わせることができるし、動画を見るだけでとてもすっきりします。

youtu.be

みんなで安全に、堂々と街を歩きましょう。

*1:この動画は、公開された後、白人男性が声をかけているところを編集カットして、黒人やヒスパニックの男性ばかりが加害者かのように演出しているとして批判され、制作した団体は意図的ではなかったと謝罪しました。たとえ意図的ではなかったとしても許されることではありませんが、これが一番、ハラスメントがどんなに不快かわかりやすい動画だったので載せることにしました。

*2:こういう言い方は、「女性は男性の所有物としてのみ価値がある」というような考えを助長するので良くないと言う人もいますが、常識のない人たちに手っ取り早くわからせるのには効果的な言い方だと思います。

*3:Hollaback! You have the power to end harassment |  What To Do If You Experience/Witness Harassment